The Masterplan 25

カテゴリ: The Masterplan  / テーマ: 二次創作:小説  / ジャンル: 小説・文学

Chapter : 25





類が所有する農場には小高い丘があった。
そこから見下ろす葡萄畑と高く広い空は、本当に気持ちの良い景色で、あたしもすぐに大好きになった。

今日は類が花沢のイタリア支社...のフィレンツェの営業所に顔を出すとかで...ここの農場の管理の事で話があるらしく一緒に誘われたのだけど、どう考えてもプライベートのついでに顔を出す御曹司に秘書のあたしが付いて行くのもおかしいのでお断り。
類は少し不貞腐れていたけど、結婚前の大事な時期だし仕方ないと渋々と一人で出掛けて行ったので、あたしは一人その小高い丘の上で大きく伸びを一つ。

この景色をあたしに見せたかったと、あたしと一緒に見たかったと笑った類は、夕陽がそうさせていただけではなくキラキラとしていて、ああ...これがきっとあたしの宝物なのだろうな...と...そう唐突に思った。

そんな珍しくムード満点の二人の間を切り裂いた不躾な声を思い出して顔をしかめる。

道明寺司。彼の事はもちろんインプット済だった。
類の幼馴染の一人だし、いずれは会う事もあるだろうとは思っていたけれど、まさかこんなところであんな風に会うなんて予想もしていなかったから驚いたのだけれど、それを上回る失礼さと言うかモラルの無さと言うか常軌を逸している態度に苛立った。

しかし苛立ちを覚えたとは言えあたしは花沢の優秀な秘書でもある訳だから、そんな態度や表情は微塵も見せずに完璧な対応...といきたかったところだけれど、余りの傲慢さに対応をするのさえバカバカしくなった。

" てめぇ、俺を誰だと思ってんだ? "
そんな漫画やドラマあるあるのセリフを現実世界で本当に言う人がいるなんて!と、ある意味感心してしまったあたしを忌々しそうに睨んでいたのが印象的。

しかし...最低最悪な出会いだった。
むしろ、もう出会いたくない...そんなわけにも行かないのかな...類の幼馴染だしなあ...はぁ...と溜息も落ちる。

「今日は一人かよ?」

背後から掛けられた声に緊張が走る。
その声はまさに今思い出していた横暴男道明寺司のものである。

「また来たの!?」

思わず飛び出たあたしの言葉に、一瞬しかめっ面をした道明寺司であったが、次の瞬間には呆れたようにあたしを見下ろす。
自分にそんな態度で表情でそんな言葉を投げてくる人間は初めてだと。

「いやだって...お忙しいんでしょう?」
「クソ忙しいわ」
「だったらなんで......」
「お前に会いに来たんだよ」

「え?」

フフンと何故か不敵な笑みを浮かべる道明寺司。

「来いよ」
「えっと...? どちらへ?」
「食事行くぞ」
「いえ、行きませんけど......」

「は?」
「今日は類もいないですし、行きませんよ」

「なんでだ!」

幾ら類の幼馴染だの親友だの言っても類のいない時に二人で食事なんてするわけがないので、普通にお誘いをお断りしたら顔を真っ赤にして怒鳴り出す。

どうやら、この俺様が直々に迎えに来て誘っているのに断るなんておかしいだろーが!って事らしい。

「申し訳ありません。世界を知る道明寺司様がわざわざ足を運び私のような下民を食事に誘ってくれるなど恐れ多い事ではありますが、お断りします」

今度は超丁重に綺麗なお辞儀もキメる。

「ふっざけんな! いいから来い!!」





***





「世界の道明寺だんなんだか知らないけどね、何でも思い通りにしようなんてずうずうしいのよ!」

何様のつもりだばかやろうばりに睨みつける。

「は?あたしが素直に言う事を聞かなかった?当たり前でしょ。なんであたしが特に知り合いでも何でもないただの彼氏の友達の一人の言う事を聞かなきゃなんないのよ!」

言われる前に予想をして捲し立てる。
だからあんたは神様のつもりかと。
否、神様に失礼である。神様は思慮深いしこんなにアホでも自分勝手で傲慢で粗暴でバカでも無いと。

レストランの個室。
ワインリストを持って入って来たソムリエが仁王立ちのあたしを見て固まったので、「ちょっと出て行ってよ」と睨みつけて追い出す。

本当にまさに肩に担がれるような感じであたしは道明寺の車に押し込められて、ほぼほぼ拉致監禁、誘拐の域で連れてこられたレストランは貸切。

こんな強引な連れ去りをされたのは当然生まれて初めて。
憤慨するあたしを相変わらずポカンとした間抜け面で見つめる道明寺司。

「あんた彼女の事もこんなぞんざいに扱ってるの?」
「あ?...ゾ?...ゾン...なんだ?」

ようやく声を発した道明寺司に、こんなにも粗暴で自己中な男、類より失礼だとは思ってたけどそれどころの騒ぎでは無いと言えば、またしても「なんだと!」と凄んでくるから、「そういうところだ」とだけ言っておく。

「ゴチャゴチャごちゃごちゃ...うるせー女だな!」
「文句言うなら連れ去ったりしないでよ!」
「いちいちうるせーんだよ! メシどーすんだ!?」
「どーするも何も勝手に連れて来たのはあんたでしょーが!」

「 食べないわよ! 帰る!!」と、くるりと背を向けるあたしに「せっかく来たんだから食ってけよ!」と怒鳴り、更にあたしの腕を力任せにググっとつかむから「加減を知らんのか!」とこちらも怒鳴り返す。

一瞬怯んだのか手を離した道明寺にため息が漏れるのはあたしの方。

「あんたさぁ...婚約者にもこんな態度なの?」
「は......?」

道明寺専務には既に決まったお相手がいるのは経済界では周知の事実。
しかし、こうも女性の扱い方が雑だとそれは俄には信じがたい事実である。
だって、こういう男は恋愛経験が皆無であると類によって知らされているのだ。

「あ、そっか。親同士が決めた相手なんだっけ?」

政略結婚って言うの?
この時代にもあるのよね、そういう婚姻で結ばれる要はWinWinの関係。

「それにしても酷いわよ。大丈夫?」

正面で睨みつけてくる男の顔色は無視して負けじと睨み返す。

「類はまだ優しかったわよ?その辺は」

わざとらしく力任せに掴まれた手首をさすりながらジトリと見つめれば、珍しく罰悪そうに「すまん」なんて謝って来るからあたしの方が驚いてしまう。





***




「突然の辞令だったの」

花沢専務付になった経緯を話すあたしを、まさにベラベラと良く喋る女だと言う表情を隠しもしない道明寺司。
あたしと類の出会いヒストリーを聞いてきたのは自分なんだからちゃんと聞いて欲しいと思う。

「で、顔が良くて付き合ったと?」
「だから、それはあんたが顔か金かって聞くからでしょ!」
「おまえ...あんた、あんたってなあ......」

目つきの凶悪さに性格の粗暴さ、そして纏う非道オーラからは想像も出来ない上品な仕草でナプキンで口元を拭う道明寺司。
やはり選ばれし御曹司道を何不自由なく歩いてきた男と見える。

類にメッセージを残して仕方なく道明寺と二人で食事。
既に敬語を使う気などさらさらない。
高級イタリアンを堪能。

「あきらと総二郎と...静にも会ったって?」
「うん。 美作さんと西門さんがいてくれて良かったよ」

静さんと3人だったら地獄だったと眉を顰めるあたしを見て少し驚いた顔の道明寺司は、次の瞬間に笑い出すからあたしの方が驚いてしまう。

こんな風に笑えるんじゃん。って。

「お前、よく俺の前で...って言うか、類の前でもそんな顔したりしてんのか?」
「そんな顔って何よ?」

ジロリと睨むあたしをまたニヤリと笑うから、あたしの顔が更に引き攣るけれど引き続き食事に集中。

「すげー食うな」

出されたものを食べているだけなのに人を大食い扱いして失礼しちゃう。

「類の前でもそんな風に食ってんのか?」
「当たり前でしょ。何で食べる人によって食べ方を変えるのよ」

まさに本場の高級イタリアン。当然美味である。

「静と類のことは良いのかよ?」
「ああ...その件についてはちゃんと類からも聞いてるしね」

難しい顔をして首を捻る道明寺に、類が拗らせていた片想いなら既に決着済であると言えば、やはりちょっと納得のいかないような表情で眉をピクリと動かす。

「類がこの世で認識してた女って静だけだぞ?」
「そうらしいね」と思わず肩を竦めてしまうあたしを、やはり難しそうな表情のままの道明寺に「でもそれも過去の話」だと続ける。

気にならないと言えば嘘になるけど、あたしは既に類から両手では抱えきれないほどの誠意を貰っていると思うから、この件についてはあたしの心中も決着済みであるのだと。

「しかしまたなんで...お前みたいな......」
「どーせ静さんとは天と地の差がありますけどね!」

フンとしてから、思い出したようにあたしは少し口角を上げる。

「あたしね、類の弱みを握ったのよ」
「...なんだよ?」
「言わないわよ」

どうしてだ教えろ!類のこと騙してんのか!?やっぱり花沢の名と金欲しさだな!ふざけんなこのクソ女!とかキレ始める道明寺司を横目に最後のデザートにエスプレッソ。

「あんたって友達想いなんだね」

そんな話はしてねぇ!と怒りのボルテージが上がりっぱなしの道明寺を落ち着かせるように、あたしは類に嘘を吐いたり騙したりはしていないし、お金目的でもないと言う。

「友達が騙されているかもしれない、利用されているかもしれないって、心配して怒ってるんでしょ?」

本音は優しい男なのかもしれない。とりあえず幼馴染達のことは大切にしているの事は分かる。

「あたしには譲れない人生プランがあったの」

またまた道明寺が怒鳴り出す前に「中3の時に父がリストラされちゃって」と貧乏家庭での生い立ちの歴史を掻い摘んで話す。
勉学に励み真面目に一生懸命、恋愛や遊びは二の次三の次。
安定した企業に就職をして、節約をして貯金を頑張って。
休みの日に映画を観に行ったりカフェでお茶をしたりと言う程度の生活に余裕が出来始めたら、そこからようやく恋愛フェーズ。

「恋愛と言ってもあたしの場合は恋愛=結婚だから、ちゃんと婚活してたんだよ」

15歳の頃から描いてきた人生プラン。
寄り道することなく地道に歩いてきたのだと言うあたしをポカン顔で見つめている道明寺にしたら、こんなものは人生プランでも何でもないのであろう。
恐らく一般的な庶民の人生はそんなものだろうという表情が読み取れる道明寺に大きく頷く。

「憧れてたよ。その他大勢が歩む人生に...。でもあたしは高校も大学もバイトに明け暮れてガリ勉を地で行くのみ」

おかげで友人も少なく年相応のお洒落や遊びも知らないまま青春時代は過ぎたけれど、その結果が出て晴れて花沢物産に就職。
色々あったけど人並の安定した生活を手に入れて、そろそろ...って感じで婚活に精を出し始めた頃だった。

「付き合って欲しいって言われたの」

本当は酔っぱらって意識の無いところを部屋に連れ込まれてキスされて胸を揉まれたんだけどね。

「お断りしたの」
「......」

類からあたしに「付き合って欲しい」だなんて信じられないと言う風な道明寺に、あたしが断ったと言う更に信じられない事実を伝えると絶句している。

「だってあたしの人生プランにはそぐわない人だったから」

真面目で誠実な...一般的なサラリーマン...出切れば公務員が希望だった。
特別に稼ぎが良いとかモデル並の容姿だとかイケメンなんて、それこそ二の次三の次どころかそれ以下。
全く重要では無かった。

それが大企業の一人息子。
容姿端麗、育ちは当然学歴も良く、20代にして専務と言う将来を約束されたスーパーエリート。

「あたしの身の丈に合わないし無理だと思ったからね」
「嘘だろ? 普通なら飛びつく話じゃねーか」

「それに性格がね...絶対無理だと思ったのよ」
「まあ...それは...わかるわ」

類の性格を熟知している幼馴染だけあって、大きく頷く道明寺は少し笑う。

「しつこくてさ......」と肩を竦めるあたしに、「わかるぜ」と笑う道明寺。

子供の頃から何にも自分自身にさえも興味も関心も無いような男だったけれど、何かしら気に入ったものが出来るとその執着は凄まじいのだと言う。

「静が良い例だ」

幼少時から慕いに慕い後をついて回っていた類が、そう簡単に他の女へ靡くとは信じ難いと眉を顰める。

「心酔していた女神に救われるばかりじゃ男じゃないからじゃない?」

むしろ漢の話なのではないかとあたしが言うと、意味がわからんとまた少しムッとして睨んでくるから短気な男だと思う。

「女神に救われる時期は過ぎたんでしょ」
「なんだその女神って?」
「類にとって静さんって女神じゃない」
「ああ...そうだな...確かに......」

ニヤリと口角をあげる道明寺にあたしも笑う。

「類の弱味ってそれだよ」
「静?が?」

「静さんが...って言うか、女の人と真面に付き合った事がないってことかな」

あんなイケメンでモテモテオーラ振りまいているのに女性と真面に交際した事無いなんて弱味でしょうと言えば、何とも言えない...奥歯をギリリッと噛んでいるような表情の道明寺が目に入る。
恐らくこの男も女性との交際経験が無いのであろう。
別に本当に弱味だなんて思って無いけれど、あたしが類と付き合っている事実に納得が出来ない人にはそう思われていた方が面倒では無い気がしている。
それに本当に「弱味」を握ったとすれば、それはイケメンでモテモテオーラを振りまいているのに女性経験が無く、しかも酔った部下を自室に連れ込んで胸を揉んだことである。

「婚活とは言っても恋愛経験ゼロで男の人と付き合った事も無かったから......」

弱味を知ったとはいえ自分も変わりなかったのだ。

「だから......丁度良かったの......」

類の言う通り。
あたし達は丁度良い相手だった。

呆れ顔の道明寺の溜息も気にならない。

「丁度良くて、居心地が良いの」

類が笑うとあたしも楽しいのだと言うと、「類が笑うわけない」と真顔で言ってくるから笑ってしまう。

「最近は良く笑うんだよ」
「マジかよ......」

「あ、あたしはあんたが笑っても楽しいよ」
「......」
「笑ってる方が良いよ。しかめっ面ばっかりだと眉間のしわが深くなっちゃうよ」

「お前、俺をあんたって言うのやめろ」
「ごめんなさい......道明寺...さま?...さん?」

「別に畏まらなくても良いけどよ」
「じゃあ、道明寺?」
「呼び捨てかよ」

アハハと笑い出した道明寺が楽しそうだからあたしも楽しいなって思う。

「牧野、お前はいい奴だ」

俺もお前の事は呼び捨てにするぞと言う道明寺は、「類にはもったいないな」と笑う。

「そんなことないよ。あたしたちは丁度良い関係なの」

お互い奥手と言うよりは無知で、初心者なんて都合の良い言葉だった。

「だ、だったら!」

急に顔面を赤くさせた道明寺の声が響く。
何か怒らせるような事を言っただろうか......?
否、この男はどうでもいいような豆粒のような小さなことにも急に怒り狂う異常者(←言い過ぎ)である事を思い出す。

また何がそんなに気に入らなかったの?と問おうと開きかけたあたしの口がポカンと途中で止まったのは、次に発せられた道明寺の言葉が全くの予想外、斜め上の上ぐらいからのものだったからだ。

「俺とも丁度良いと思うぜっ! ///// 」

茹蛸の様に真っ赤な顔の道明寺の視線は真っ直ぐで、あたしはまるでうっかりメデューサの前に出て行ってしまった小動物のように固まってしまったのだ。








関連記事

編集 / 2023.05.21 / コメント: 5 / トラックバック: 0 / PageTop↑

コメント

Re: タイトルなし

きょん!さま
椿さんね...出てこないですw
言われるまで存在すら忘れていた。
忘れていたと言うか司に姉がいる...程度の情報しか私の脳内に無かったw
類くん嫉妬全開で不貞腐れることでしょう(;
次回もお楽しみください。コメントありがとうございました。

[ 2023.05.22 17:51 | so | URL | 編集 ]

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

[ 2023.05.22 17:05 | | | 編集 ]

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

[ 2023.05.22 17:04 | | | 編集 ]

Re: No title

きな粉さま
司ぶった切られて惚れる...これ仕方ないですよねw
茹蛸司もかわいいよね。
つくしちゃんと似ているところある。
さて...類くんの嫉妬爆発数秒前...後半もよろしくお願いします。
コメントありがとうございました。

[ 2023.05.22 13:51 | so | URL | 編集 ]

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

[ 2023.05.21 11:09 | | | 編集 ]


Pagetop↑

Pagetop↑

 HOME 

プロフィール

so

Author:so
類つく萌え。
お茶好き。
週末のお楽しみは、
ワインとめぐりズム。
更新情報はTwitterで。
フォローはご自由にどーぞ。

更新情報

Mail

名前:
メール:
件名:
本文:

Thanks