The Masterplan 26

カテゴリ: The Masterplan  / テーマ: 二次創作:小説  / ジャンル: 小説・文学

Chapter : 26





牧野の赴任先だったイタリア。
顔見知りもいるかもしれないし、俺と結婚をする事になっている...つまりフィアンセになったと報告すれば良いものを、まだ早いとかそんな関係では無いとか失礼を通り越して俺のこと遊びだったの?と思わせるほどの拒否っぷりで家に残ったかと思えば司と " 二人でランチしてるね " なんてそんなメッセージを一つ寄越して電話にも出ない。

そもそも司が二日連続で現れて、しかも今日に限っては絶対に時間を調整してランチを狙って来ているだけで恐ろしく珍しい事なのに、俺不在の状況で昨日会ったばかりの女性を誘って二人っきりで食事に行くなど、まさに天変地異級の異常事態。

司が自ら女性を誘うなんてそんなの聞いた事無い。
俺が知らないだけかもしれないけれど、俺が知る限りは無い。
俺も女性を誘ったのは牧野が初めてだから、牧野自身がが誘いやすい女なのかもしれないが......。
いやいやそうではなくて...俺の勘では司は無意識にコロンと落ちたのではないだろうか......。

悲しい事に俺は勘が良い方だ。

無性に焦りを感じながら二人がいるホテルのレストラン。
個室の扉を開ければ茹蛸みたいに顔を赤くした二人がモジモジとしていたから「浮気かよ?」と咄嗟に出た予想外のワードに自分でも驚いた。

「な...なっなななに言ってんのよ!バカね!」
「ねぇ!?」と、司に同意を求めてあわあわし出した牧野の動揺っぷりにスンと冷静になる。

ペラペラと聞いてもいないのにここまで司にどういう風に連れて来られたのか、ランチのメニュー、丘の上での司との会話、メインのラム肉の柔らかさの事、車の中での司との会話内容...と、とにかくにめちゃくちゃに話す。
順序も時系列もない、単純に思いついた事、思い出した事を捲し立ててくる牧野に、どんどん冷静になって行く俺。頭の中がひどくクリアー。

「司、牧野に告白でもした?」
「こっ /// 告白! ///
「こくっ /// こくは... ! ///

同時に顔をボンッと赤くした司と牧野に呆れる。

「してないっ!されてないからっ!」と牧野がブンブンと顔の前で手も首も振る。

「俺がこんなちんちくりんな女に、こ、告白なんてするわけないだろ!」

「うん。司は婚約者いるもんね」

ちんちくりんに反応した牧野が司を睨みつけて何か言いかけて開けた口が瞬時に閉じられて大きく頷く。
フンとした司が忌々しそうに俺を睨んでくるけど無視。

「司には婚約者...長く付き合っている彼女がいるんだよ」
「大河原財閥のお嬢さんですね」

さすが花沢の次世代秘書育成プログラムに選抜された逸材。
道明寺財閥の道明寺専務のパーソナルデータはインプット済とみえる。

「フン。別に付き合ってるわけじゃねーよ」

正式に婚約もしていないし、まだ数回しか会った事も無い相手であると司は言うけれど、司の性格上、本当に気に入らなければ1度会っただけで終わるだろうに、20歳で見合いと言う名の顔合わせが行われて以来、交際は続いているはず。

「まあ俺にはどーでもいーけど......」とジロリと司を見る。
「まさか幼馴染の婚約者に手を出すとかないよね?」

「は...はあ!? 俺がこんなバカ女に...なんでっ...!」

「ちょっと!バカ女って何よ!?」

なんなんだろうな。
牧野のこの...照れ隠しみたいな怒りっぷり。
イライラする。

「うるせー女だ」と正面で睨み合う二人に俺の心も冷えて行く。

「チッ...俺はもう行くぜ」
じゃあな...と立ち去る司に「ごちそうさまでした!」とありったけの声で例の180度お辞儀をする牧野。
振り返った司の目が見開かれて、その天然パーマの前髪が俺には靡いたかのように見えて今度は俺が溜息を吐く。

落ちただろ。
恋に。





***





「だから道明寺とは友達?みたいな...そうなろうって」

すっかり道明寺と呼び捨て。
親しさ全開の牧野が言うには司には女友達がいた事が無いから自分ともきっと丁度良い友人関係が築けるとかなんとか?
どうでも良いけどあの司が女を口説くとはね......。
まさに激レア案件。

「正式に婚約してないってあれ本当なの?」と司と婚約者の大河原が長らく家族ぐるみで良き関係を築いていながらどうしてという表情の牧野に、「そろそろするんじゃないかな? 30前には入籍するって話だったはずだよ」と、あきらだったか総二郎だったかに聞いた話によると二人とも逃れられない結婚を理解しているから、それならば何も早々に入籍はせずに恋人として交際を...みたいな取り決め?をしていたはずだと伝える。

「そっか...。政略結婚とはいえ二人ともちゃんと向き合ってるんだね」

とても素敵な二人だね...なんてポジティブ思考の牧野だけど、ずーっと司の話題で俺の機嫌は底辺にペタリ。

「大河原さんと類は会った事あるの?」
「ずいぶん昔に...道明寺のパーティーだったかな...?」

司のパートナーとして1度ぐらいは見た事がある程度。

「もしかしたら司もその程度しか会ってないのかもな」
「え...婚約者なのに?」

そんなものだろう...と、司も正式に婚約はしていないと言っていたし、俺だって親が決めた逃れられない相手ならきっとそんな感じになるよと言えばショックを受けたような表情で、「なんか悲しいね」と落ち込むような牧野の声が司を案じているようで気に入らなくなってくる。

「せっかく交際しているならもっとちゃんと付き合ってみたらいいのにね」

もったないなあ...と「ね?」と俺に同意を求めてくるけれど、家や会社の思惑で決められた婚姻に、そう簡単に前向きに向き合えるわけがないと思う。

「牧野にはわかんないよ」

つい口から出てしまって、しまった...!と顔を上げれば、予想に反して物凄く嫌な表情をした牧野が「出た~、庶民にはわからないでしょう発言!」と大袈裟に肩を竦める。

「ごめん。そんなつもりじゃなくて...」
「いいのいいの。本当に分からないんだろうから」

俺の失言なんて失言とも思っていないような牧野が顎に指を当てて考える仕草の後、「でも、あたしも婚活してたから何となくはわかるよ」と微笑む。

「自分の人生をより良くするための相手を条件と照らし合わせて探すんだもん」
親が見つけてくるか自分で探しに行って見つけるかの違いでしょうなんて、そんなに変わりは無いんじゃないと笑う。

牧野らしいと言えばらしい考え方に「まあ...そうなるのか......」と上手く丸め込まれたような気もしないでもない俺に、「そうだよ」なんて相変わらず楽天的な牧野が笑うから何だかそんな気もしてくる。

「類はやっぱり...いずれ静さんと...って考えていたんでしょ?」

断定的に言われて苦笑する。

「理想的なものはあったかもな」
子供の頃は何も知らなくて、だからそう思っていたけれど......。
「でも俺は現実主義者だから理想を追い求めたりしないんだ」

「じゃあ類も道明寺みたいに親が決めた相手と...って予定だったの?」
「うーん...そうかも...俺にとってはそっちの方が現実的だったかな」

幼少時に病んだ経緯があるから無理矢理に結婚を急かす事は無かったと思うけど、いずれは...と頭を悩ませてた節はあるかなと言う俺に「そっか...」なんて、また少し考える仕草の牧野には、ゲイなのではないか?と心配されていた事は伏せておく。

「ま、どのみち俺はこういう運命だったんだろ」
「こういう?って?」
「牧野つくしと出会って恋に落ちて結婚するって言う運命」

ニアミスのような過去の俺たちの経歴。
いつ出会ってもおかしくなった。

「牧野つくしは俺の運命の女だろ?」

下から覗き込むように問えば途端に牧野の顔は紅潮する。
「違うの?」と首を傾げれば湯気が噴出した音がしそうな程に真っ赤になって目を見開く。
「その顔...俺以外の男の前でするなよ」と少し声に不満が乗るのは仕方ない。

「してないよ /// 」
「司の前でも同じ顔してたよ」

あれは違うそうじゃないと動揺すると良く喋る。
落ちそうになる溜息を飲み込んでその唇を塞ぐ。

「司はお前と丁度良い関係になんてならなくて良いんだよ」
「......はい」
「浮気ダメ絶対」
「浮気してません」
「浮気だよ。俺以外の男と二人きりになったんだから」
「だからそれは...!」
「言い訳しないで。丁度良い関係とか言われて照れて真っ赤になって...浮気だよ」

ちょっと不貞腐れている牧野の唇をもう一度指ではじいて、例えばもしも牧野が今俺の恋人じゃなかったとしても、牧野が男と二人きりでデートして顔を赤らめているなんて嫌だと言う俺に、デートじゃないし顔も赤くなんか...!と動き出した唇をもう一度塞ぐ。

「静を好きだと思っていた時は、こんな気持ちにならなかったよ」

静が男と二人でお茶をしたり食事をしたり、腕を組んで歩いていたり...それは嫌だったしあからさまに嫌だと言う態度も取っていたけれど、今日のこの気持ちとは違う。

それは俺と静が恋人同士じゃなかったからとかそんな単純な話では無いと思うと言えば、牧野は「うん」と小さく頷く。

幼馴染の誰かが静と仲良くしていても、多少の嫉妬はあったとして、苛立ってその幼馴染の手を叩き落すことも無かった。

だから初恋はここだと言っているだろうと見つめれば、急にしおらしくなったみたいにモジモジと真っ赤になって俯く。

「俺は牧野を誰にも譲る気持ちは無いよ」

静に恋人が出来た時でさえ、俺は何もせずにただ不貞腐れていただけだった。
今は違う。

「俺だけのものだと心底思ってる」

だけど、取られてしまうかもしれないと言う恐怖感のような自信の無さみたいなものもある。

「司に取られるかもしれないって......」
「あたしを尻軽みたいに言わないでよ」
「え?」

予想外にプンとした牧野に呆気にとられるも次の瞬間には笑いが込み上げてくる。

「あたしはそんなすぐに誰かを忘れたり好きになったりしないの!」

何笑ってんのよ!と睨んでくる牧野は、まったく...とブツブツと不貞腐れる。
その頬が赤くて可愛らしい。

「俺の運命の女神はつくし」

「は...はあ!? な、なに!? 急に!あたしは庶民で女神じゃないですけど! 髪もゆるふわ栗毛じゃないし!」

「アハハ! 何言ってんだ」

何が可笑しいのよと不貞腐れている赤く膨らんでいる頬を撫でる。

「黒髪ストレートの庶民が俺の女神」

「っな、なに...を...っ! /// 」

生まれて初めてその感情を自分自身でさえ目を伏せていた胸の内を見せられた。
気負いもせずにそれはとても自然に何の躊躇いも無く。

誰にどう思われても全くどうでも良かったのに、そんなことは露ほども気にした事等無かったのに、今はその大きな黒い瞳に自分と言う人間がどう映っているのかが気になるんだ。

「初めて見た時...この黒髪が流れた様が綺麗だなって思って......」

美しい程に真っ直ぐに混じりけの無い綺麗なお辞儀をする人間に、嫌われたくないと思ったよ。

だから、あの悪口は傷ついたな...とチラリと牧野を見ながら口元をわざとに歪ませれば、相変わらずフリーズしたみたいに目を見開いて固まって、悪口じゃなくて独り言だとワーワーと言い訳してくるけれど、独り言でも悪口なのに何を言っているのかと可笑しくなる。

「類...そもそもあたしとの初対面なんて憶えてるの? 見もしていなかったのに...... 」
「ん? 見てたけど?」

「うそ!」と疑いの眼差しも真っ赤な顔で照れ隠しの牧野を見つめながら、今日はちょっと気分の悪いこともあったし、優しく労わるようには出来ないかも?と首を傾げる。
更に真っ赤になって口をパクパクしている牧野の耳たぶに唇を寄せて、「覚悟して」と小さく囁いた。









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編集 / 2023.05.23 / コメント: 2 / トラックバック: 0 / PageTop↑

コメント

Re: タイトルなし

きょん!さま
類くんの成長を感じ取って頂けて良かったです。
饒舌...に、つくしちゃんに想いも伝えているしね。
一気に男になったよねw
何度も読んでくれて&いつもコメントありがとうございます。

[ 2023.05.24 23:10 | so | URL | 編集 ]

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[ 2023.05.23 07:08 | | | 編集 ]


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