The Masterplan 27
カテゴリ: The Masterplan / テーマ: 二次創作(BL) / ジャンル: 小説・文学
Chapter : 27
「牧野は譲らないよ」
「何の話だ!?」
「今までは司の我儘が面倒だから何でも1番にさせてやったし譲ってきたけど牧野はダメ」
「俺がいつお前に...!ふざけんなっ!何だその俺を1番にしてやってたって言うのは!!」
「そのままの意味だけど?」
ここが今、密室で空の上で...機内食?なの?ステーキに舌鼓を打つあたしは、分かりやすく冷めた表情の類と相も変わらず怒鳴り散らす道明寺の声に、現実世界にはまだまだあたしの知らない世界があった事を思い知らされている。
「今日帰るんだろ? 乗ってけよ」と道明寺がまたまたやって来たのにも驚いたけど、そんな出先で偶然会ったからそこまで乗ってけよじゃあるまいし、イタリアから日本へ帰国するのに「乗ってけよ」ってプライベートジェット。
そんな人いる?
いや、いたのよここに。
しかもそれに驚かないあたしの彼氏もその世界の住人。
プライベートジェットなんてもちろん初めて乗ったし、そこでこんなレストランみたいな食事が出るなんて...そもそもソファーやテーブルがあって、空を飛んでいることを忘れてしまいそうな空間。
驚きすぎて声も出なかったあたしは、「腹減ってんだろ。食え」と偉そうな道明寺に反応できず、だってそれ言われて出てきたのフルコースだよ? 信じられない。
類はワイン片手に道明寺にあたしに手を出すな的な...否、違うな。
あたしをくれてやる気はないみたいなことを言っていて、道明寺はそれに対してバカな事を言うな!と怒り心頭って感じ。
確かにね。
類は少し妄想が過ぎている。
道明寺があたしを好きとか狙っているとか...無いと思う。
これまでの人生であたしに好意を寄せてくれた男性は類唯一人なのである。
それは類にも特殊な事情があったからこそ成立した関係で、通常あたしに恋愛的な興味を抱く男性は少ないのだ。
そんなことは婚活経験を経て自分なりに良く理解している。
でも、そう考えるとあたしって強運なのかもしれない。
類のような一見パーフェクトな男性に好意を示されているなんてね......。
青春を犠牲にしてきて本当に良かった。
報われた感がある...と感慨に浸りながら口元をナプキンで拭うと、「ほんと良く食う女だよな」と道明寺が類に「いつもこうなのか?」と聞いている。
「いつもそう」
「バクバク食ってベラベラ喋って、飽きねーな」
「だろ」
「無口なお前には丁度良いかもな」
「ん。だから司には丁度良くないから」
フンとした道明寺は腕を組んでソファの上で足も組む。
彼は日本での仕事があるからと「ついで」にあたし達を日本まで送ってくれている。
ちなみに我社花沢物産の専務...類は所謂ビジネスジェットをチャーターすることはあるけれど、私的目的でプライベートジェットを使用することは無い。
「帰国したらそのままちょっと付き合え」と目を瞑ったまま道明寺がサラリと言えば、「やだ」と類が即答してまた道明寺が喚き出す。
「ババアが帰国するなら大河原と会えってうるせぇーんだよ!」
「知らないよ」
「お前たちを送るために予定変更したんだからそれぐらい付き合え!」
「頼んでないだろ」
ばばあ?と首を捻りながら、大河原さん...つまり婚約者に会うのに何故にあたしと類が付き合わなければならないのかと考える。
類も同様の気持ちのようでストレートに「面倒くさい」「ヤダ」としか口を開いていない。
どう云う訳か道明寺はあたし達を日本に送るために仕事の予定を変更したようで、それでわざわざ日本に行くならたまには婚約者と食事なり...つまりデートをしろと母親(ババア)に言われたようである。
いい年をして幾ら社長とはいえ母親に命令をされて、しかも母親の事をババアだなんてダサいなって思う。
「牧野、ヤダよね?」と類に問われて「ヤダ」と即答。
どうして二人のデートにお邪魔しなければならないのか意味不明だと言えば、会うのが2回目だか3回目だかで、しかも二人きりで会うのは初めてで面倒だとか嫌だとか単なる我儘を並べる道明寺に呆れる。
「久しぶりに...しかも数年ぶりにして初めて婚約者と二人きりで会うデートに、友達カップルを連れて行く人なんていないよ?」
冷静に考えてみなよと道明寺に言えば、デートじゃないとか婚約していないとか、まだそんなことを言っているから呆れを通り越して面倒くさくなる。
「だいたい向こうの女だって最初は乗り気じゃなかったんだ!それが年も一緒だし俺と結婚しても良いとか言い出したから婚約みたいになってるだけだ!」
「司だって誰と見合いしたって別にどうでも良いからそれでいいって言ってたじゃん」
それは類も自分だって何度も何人もと見合いをさせられるのはごめんだから気持ちは分かるらしい。
「このまま入籍するより何回かデートでもしてみたら良いじゃん。案外、司に丁度良い相手かもよ」
ね?と肩を竦める様な仕草であたしに同意を求めてくる類に苦笑しつつも頷きながら「何でそんなに二人で会いたくないの?」と道明寺に聞けば、二人で会った事も無いのに話すことも無いとかなんとか...ははーん...つまりデートしたことないんだろうなと思う。
「類もそうだったけど、デートに自信が無いんだね」
「「はあ!?」」
二人揃って心外みたいな態度。
「あたしはそれなりに男の人と二人でお茶とか食事とかあるけど...最初だけだよ?緊張するのは」
会ってしまえば何てことは無い、それに将来を考えた付き合いになるのなら条件の照らし合わせや聞いておきたい事も多々あるだろうし...と言えば、「カップリングパーティーでカップルになった男とのお茶や食事をデートみたいに言うな!」と類が何を慣れた感じを装っているのだとブツブツ言ってきて、それを聞いた道明寺が、「カップリングパーティーだと!?」と大袈裟なまでに驚いたかと思えば「お前そんなふしだらな女だったのか!!」と怒鳴る。
「降りろ!」とあたしの目の前で仁王立ちの道明寺が鬼の形相。
「お前のようなふしだらな女を乗せる訳には行かない! 今すぐ降りろ!」と絶対に無理な事を言ってくる。
「ふしだらって何よ!?」
「ふしだらだろーが! 不特定多数の男と出会いを求めて...!!」
「婚活だって言ってんでしょーが!」
「類! お前は知ってて...! こんな女やめろ! 最低な女だぞ!」
「何勝手にヘンな妄想してんのよ!あたしはついこの間まで処女だったっつーの!」
「しょ...っ!!」
失礼しちゃう。
って言うか世間知らずにも程があるでしょうよ。
婚活パーティーへの参加でふしだら女と決めつけるなんて。
「うん...牧野の初めては俺なんだよね」
だから、ふしだらな女どころか正反対だよ...って言ってくれるのは嬉しいけど、類も何を少し照れているのか。
「キスも類に初めてを奪われたのよ」
「うん...」←だから類は何を照れているのか。
「奪われたって意味わかる?」と真っ赤になって口を噤んだままの道明寺に問う。
「あたしは全く1ミリもそんな気も何も無かったのに勝手に突然キスされたのよ」とジロリと類を睨めば、「え...」と意外そうに言葉に詰まっている類。
「道明寺、あんたは婚約者に同意も許可も無くそんなことするんじゃないわよ」
「し、しねーよ!」
「二人きりで会ってホテルで食事するからって関係OKってわけじゃないんだからね!」
「わかってるわ!」
何を偉そうに...!と道明寺があたしを睨んでくるけれど、ふと「ん?」と首を傾げる。
「つまり...類...お前は牧野の同意も許可も無く勝手にキスをしたのか!?」
「そうよ」
「違うよ」
「違わなく無いでしょーが! 胸まで揉んでさ!」
「む、むね...類、お前なんてことを....!手の早い女好きのあきらや総二郎だって同意なくそんなことしねーぞ」
美作さんと西門さんは噂通り手が早い女好きであることは間違いないようである。
「牧野いい加減にしろよ...その話蒸し返してどうするつもり?」と不機嫌な類の声に、確かに今更蒸し返す話では無かったと反省をするけれど道明寺の類への説教が止まらない。
「類、見損なったぜ」
「犯罪だぞ」
「お前はあきらや総二郎と違って節操ない事はしないと思ってた」
美作さんと西門さんは節操がないのか...と引っかかりつつも、「道明寺...その話はもういいの...」と類には「ごめん」のポーズ。
「っつーか、牧野! お前もお前だ!普段から男を舐めてかかってるからそーゆーことになるんだ!」
相手がまだ類だったから良いようなものの、他の男だったらそのまま最後まで処女を奪われていたかもしれないぞと今度はあたしに隙があるとか説教を始める。
「あのね! 隙があろうが無かろうが、酔った女を自室に連れ込めたからってOKじゃ無いんだって言ってるでしょーが!」
ったくどいつもこいつも男の都合の良い解釈ばかりしくさって、それで女の方も悪いなんてふざけるな!と怒るあたしを、最初は言い返そうとしていた道明寺も次第に「ぐぬぬ」と奥歯を噛みしめて、「類はもう反省してる。 あんたも考えを改めろ。ばか」と言ったところで、急に肩を落としてドサリ...と言った感じでふかふかのソファに身を預ける。
「司も牧野には勝てないだろ」
ふふふと笑い出した類は、こんなにベラベラと次から次へと辛らつな言葉を流れるような口調で言ってくる人間は初めてだろうと、自分も最初は圧倒されて何も言い返す気力も無かったのだと言う。
「ったく...類、よくこんな女と付き合ってられるな」
「無口な俺には丁度良いんだろ?」
また少し口角を上げた類を横目で見た道明寺に、「世間知らずの俺には世知辛さを良く知っているところも丁度良いし」とご機嫌な様子で続ける類。
世間知らずの自覚はあったのかと思いつつ、世知辛さを知る女認定された事にどこか腑に落ちない気持ちもある。
「でも二人で話してみるまでそんなことは知らなかったよ。だから司も婚約者と話してみたら?」
まさかの、あの類が「対話」を勧めていることに驚愕。
勧められている道明寺も「お前が言うのか!?」と言う態度を隠しもせずに驚愕。
無理矢理に空港からそのまま道明寺の車に乗せられてホテルメープル着。
最上階の全方位ガラス張りロマンチックレストランの個室。
「つくしってかわいい名前だね。私は滋。しげるちゃんでいいよー。よろしくね」
大河原のお嬢様は想像とは全く違った女性だった。
まず、あたしと類が付いて来た事に嫌がるどころか大喜び。
「司の友人カップルを紹介してもらえるなんて嬉しい!」とあたしと類の手を掴んでブンブン振って、
「今日はいっぱい食べて飲もうね!」
「つくしは一つ下なんだねー。 私と友達になろうね」
「これ私の連絡先だよ。つくしのも教えて」
「ワインにする?シャンパン? 私のお勧めはこの白ワイン」
「フレンチは美味しいけど、何度も皿が運ばれてくるの面倒だからいっぺんに持ってきてもらおうよ」
「あ、ね? 今夜これから温泉に行かない? うちの旅館があるの」
大はしゃぎである。
あたしの事をベラベラ喋る女だと眉間にしわを寄せていた道明寺だけど、単純な騒々しさは貴方の婚約者の方が上ですけど?って感じ。
その道明寺も婚約者のその生態を知らなかったと見えて固まってるけど...本当に2回程度顔を合わせた程度なのね...と、類じゃないけどちゃんと話してみないと人間なんて分からないものだと思う。
「おいしいー! 私これ好きー!」
あたしのことをバクバク食う女だとも道明寺は言っていた。
貴方の婚約者の方が大食いクイーン並の食欲ですけど?
そんな気持ちで未だ固まったままの道明寺を見れば、口までポカンと開けている。
「類くんってずっとフランスにいたんだよね? 日本には慣れた?」
「あれ? 二人はいつから付き合ってるの?」
「え? つくし花沢で働いてるの!? 類くんの秘書! いやーんオフィスラブ。やらしい!」
質問攻めに合うけれど、類がその質問に答える訳は無いので何とかあたしが口を開く。
大河原譲曰く親同士が決めた婚約で乗り気では無かったけれど、大学の卒業も近付きもう逃げられないと観念をして顔合わせをしてみたら予想に反して同い年だった事で婚約に了承したとのこと。
どうやら親同士が決める政略結婚の相手なんてどうせ一回りは年上のおじさんだと思っていたのだそうな。
「オフィスラブいいなあ。 私も道明寺で働いてみようかな」
「司は忙しいからって全然会ってくれないの」
「年に1回あるかないかだよ? それで結婚しろって横暴だよね」
「類くんとつくしはいつ結婚するの? 結婚式は私も呼んでね」
「司の婚約者じゃなくてつくしの友人として招待して!」
「私と司の結婚式にも呼ぶよー」
ほぼほぼ一人で喋り続けながらあっという間にフルコースを平らげてデザートのカットケーキを2口で食べ終えた大河原譲。
「さあ、行こうか」と立ち上がる。
どうやら本気で温泉に行く模様。
「あたしと類はイタリアから帰国したばかりで...その疲れ...」
「うんうん。 疲れを癒すには温泉がいいよ!」
「いや...あの...」
「露天風呂ある?」
ここへ来て初めて発声した類の言葉に驚愕する。
確かに類は温泉好きだけど、まさか行く気なのか。
珍しく「やだ」「ねむい」「面倒」を口にしていなかったのは大河原譲に圧倒されているだけかと思っていたけれど、単純に温泉に興味があったということだろうか。
「あるよー。源泉かけ流しだよ。司はどうする? 忙しいなら別に無理しなくていいよ」
まさかの道明寺を置いて行く気の大河原譲に再度驚愕するあたし。
全く道明寺の事を気にしていない。
「お、俺は......」
「あ! 類くんとつくしにはプライベート庭園のある離を用意するね」
口を開きかけた道明寺の横からまた大河原譲が喋り出し、そのまま携帯電話でこれから温泉へ行くことを伝えている。
「道明寺...行く?よね?」
思わずあたしが声を掛けてしまったのは、俺様一番のこの男が婚約者に蔑ろにされた挙句に無視されたからである。
ちょっとかわいそうなような面白いような...うん、面白いなって思っていたら、「司、お前と丁度良さそうじゃん」と類がクスクスしてあたしの腰に手を回す。
「う、うるせー! お前! 何勝手に決めて...!」
「お前じゃない。滋ちゃん」
滋でもいいけど、ちゃんと名前で呼んでよねと言う大河原嬢は楽しそうに振り向く。
「...俺の部屋は一番良い部屋にしろ!」
相変わらずの俺様一番道明寺の命令にも、「司は滋ちゃんと一緒だよー」と自然体の大河原嬢が笑う。
「な、なに...! /// 」
案の定、真っ赤になって動揺し始めた道明寺と、あたしの腰を抱いたまま欠伸をする類と、ご機嫌な大河原のお嬢様を眺める庶民(あたし)の1日はまだ終わらないのであった。
「牧野は譲らないよ」
「何の話だ!?」
「今までは司の我儘が面倒だから何でも1番にさせてやったし譲ってきたけど牧野はダメ」
「俺がいつお前に...!ふざけんなっ!何だその俺を1番にしてやってたって言うのは!!」
「そのままの意味だけど?」
ここが今、密室で空の上で...機内食?なの?ステーキに舌鼓を打つあたしは、分かりやすく冷めた表情の類と相も変わらず怒鳴り散らす道明寺の声に、現実世界にはまだまだあたしの知らない世界があった事を思い知らされている。
「今日帰るんだろ? 乗ってけよ」と道明寺がまたまたやって来たのにも驚いたけど、そんな出先で偶然会ったからそこまで乗ってけよじゃあるまいし、イタリアから日本へ帰国するのに「乗ってけよ」ってプライベートジェット。
そんな人いる?
いや、いたのよここに。
しかもそれに驚かないあたしの彼氏もその世界の住人。
プライベートジェットなんてもちろん初めて乗ったし、そこでこんなレストランみたいな食事が出るなんて...そもそもソファーやテーブルがあって、空を飛んでいることを忘れてしまいそうな空間。
驚きすぎて声も出なかったあたしは、「腹減ってんだろ。食え」と偉そうな道明寺に反応できず、だってそれ言われて出てきたのフルコースだよ? 信じられない。
類はワイン片手に道明寺にあたしに手を出すな的な...否、違うな。
あたしをくれてやる気はないみたいなことを言っていて、道明寺はそれに対してバカな事を言うな!と怒り心頭って感じ。
確かにね。
類は少し妄想が過ぎている。
道明寺があたしを好きとか狙っているとか...無いと思う。
これまでの人生であたしに好意を寄せてくれた男性は類唯一人なのである。
それは類にも特殊な事情があったからこそ成立した関係で、通常あたしに恋愛的な興味を抱く男性は少ないのだ。
そんなことは婚活経験を経て自分なりに良く理解している。
でも、そう考えるとあたしって強運なのかもしれない。
類のような一見パーフェクトな男性に好意を示されているなんてね......。
青春を犠牲にしてきて本当に良かった。
報われた感がある...と感慨に浸りながら口元をナプキンで拭うと、「ほんと良く食う女だよな」と道明寺が類に「いつもこうなのか?」と聞いている。
「いつもそう」
「バクバク食ってベラベラ喋って、飽きねーな」
「だろ」
「無口なお前には丁度良いかもな」
「ん。だから司には丁度良くないから」
フンとした道明寺は腕を組んでソファの上で足も組む。
彼は日本での仕事があるからと「ついで」にあたし達を日本まで送ってくれている。
ちなみに我社花沢物産の専務...類は所謂ビジネスジェットをチャーターすることはあるけれど、私的目的でプライベートジェットを使用することは無い。
「帰国したらそのままちょっと付き合え」と目を瞑ったまま道明寺がサラリと言えば、「やだ」と類が即答してまた道明寺が喚き出す。
「ババアが帰国するなら大河原と会えってうるせぇーんだよ!」
「知らないよ」
「お前たちを送るために予定変更したんだからそれぐらい付き合え!」
「頼んでないだろ」
ばばあ?と首を捻りながら、大河原さん...つまり婚約者に会うのに何故にあたしと類が付き合わなければならないのかと考える。
類も同様の気持ちのようでストレートに「面倒くさい」「ヤダ」としか口を開いていない。
どう云う訳か道明寺はあたし達を日本に送るために仕事の予定を変更したようで、それでわざわざ日本に行くならたまには婚約者と食事なり...つまりデートをしろと母親(ババア)に言われたようである。
いい年をして幾ら社長とはいえ母親に命令をされて、しかも母親の事をババアだなんてダサいなって思う。
「牧野、ヤダよね?」と類に問われて「ヤダ」と即答。
どうして二人のデートにお邪魔しなければならないのか意味不明だと言えば、会うのが2回目だか3回目だかで、しかも二人きりで会うのは初めてで面倒だとか嫌だとか単なる我儘を並べる道明寺に呆れる。
「久しぶりに...しかも数年ぶりにして初めて婚約者と二人きりで会うデートに、友達カップルを連れて行く人なんていないよ?」
冷静に考えてみなよと道明寺に言えば、デートじゃないとか婚約していないとか、まだそんなことを言っているから呆れを通り越して面倒くさくなる。
「だいたい向こうの女だって最初は乗り気じゃなかったんだ!それが年も一緒だし俺と結婚しても良いとか言い出したから婚約みたいになってるだけだ!」
「司だって誰と見合いしたって別にどうでも良いからそれでいいって言ってたじゃん」
それは類も自分だって何度も何人もと見合いをさせられるのはごめんだから気持ちは分かるらしい。
「このまま入籍するより何回かデートでもしてみたら良いじゃん。案外、司に丁度良い相手かもよ」
ね?と肩を竦める様な仕草であたしに同意を求めてくる類に苦笑しつつも頷きながら「何でそんなに二人で会いたくないの?」と道明寺に聞けば、二人で会った事も無いのに話すことも無いとかなんとか...ははーん...つまりデートしたことないんだろうなと思う。
「類もそうだったけど、デートに自信が無いんだね」
「「はあ!?」」
二人揃って心外みたいな態度。
「あたしはそれなりに男の人と二人でお茶とか食事とかあるけど...最初だけだよ?緊張するのは」
会ってしまえば何てことは無い、それに将来を考えた付き合いになるのなら条件の照らし合わせや聞いておきたい事も多々あるだろうし...と言えば、「カップリングパーティーでカップルになった男とのお茶や食事をデートみたいに言うな!」と類が何を慣れた感じを装っているのだとブツブツ言ってきて、それを聞いた道明寺が、「カップリングパーティーだと!?」と大袈裟なまでに驚いたかと思えば「お前そんなふしだらな女だったのか!!」と怒鳴る。
「降りろ!」とあたしの目の前で仁王立ちの道明寺が鬼の形相。
「お前のようなふしだらな女を乗せる訳には行かない! 今すぐ降りろ!」と絶対に無理な事を言ってくる。
「ふしだらって何よ!?」
「ふしだらだろーが! 不特定多数の男と出会いを求めて...!!」
「婚活だって言ってんでしょーが!」
「類! お前は知ってて...! こんな女やめろ! 最低な女だぞ!」
「何勝手にヘンな妄想してんのよ!あたしはついこの間まで処女だったっつーの!」
「しょ...っ!!」
失礼しちゃう。
って言うか世間知らずにも程があるでしょうよ。
婚活パーティーへの参加でふしだら女と決めつけるなんて。
「うん...牧野の初めては俺なんだよね」
だから、ふしだらな女どころか正反対だよ...って言ってくれるのは嬉しいけど、類も何を少し照れているのか。
「キスも類に初めてを奪われたのよ」
「うん...」←だから類は何を照れているのか。
「奪われたって意味わかる?」と真っ赤になって口を噤んだままの道明寺に問う。
「あたしは全く1ミリもそんな気も何も無かったのに勝手に突然キスされたのよ」とジロリと類を睨めば、「え...」と意外そうに言葉に詰まっている類。
「道明寺、あんたは婚約者に同意も許可も無くそんなことするんじゃないわよ」
「し、しねーよ!」
「二人きりで会ってホテルで食事するからって関係OKってわけじゃないんだからね!」
「わかってるわ!」
何を偉そうに...!と道明寺があたしを睨んでくるけれど、ふと「ん?」と首を傾げる。
「つまり...類...お前は牧野の同意も許可も無く勝手にキスをしたのか!?」
「そうよ」
「違うよ」
「違わなく無いでしょーが! 胸まで揉んでさ!」
「む、むね...類、お前なんてことを....!手の早い女好きのあきらや総二郎だって同意なくそんなことしねーぞ」
美作さんと西門さんは噂通り手が早い女好きであることは間違いないようである。
「牧野いい加減にしろよ...その話蒸し返してどうするつもり?」と不機嫌な類の声に、確かに今更蒸し返す話では無かったと反省をするけれど道明寺の類への説教が止まらない。
「類、見損なったぜ」
「犯罪だぞ」
「お前はあきらや総二郎と違って節操ない事はしないと思ってた」
美作さんと西門さんは節操がないのか...と引っかかりつつも、「道明寺...その話はもういいの...」と類には「ごめん」のポーズ。
「っつーか、牧野! お前もお前だ!普段から男を舐めてかかってるからそーゆーことになるんだ!」
相手がまだ類だったから良いようなものの、他の男だったらそのまま最後まで処女を奪われていたかもしれないぞと今度はあたしに隙があるとか説教を始める。
「あのね! 隙があろうが無かろうが、酔った女を自室に連れ込めたからってOKじゃ無いんだって言ってるでしょーが!」
ったくどいつもこいつも男の都合の良い解釈ばかりしくさって、それで女の方も悪いなんてふざけるな!と怒るあたしを、最初は言い返そうとしていた道明寺も次第に「ぐぬぬ」と奥歯を噛みしめて、「類はもう反省してる。 あんたも考えを改めろ。ばか」と言ったところで、急に肩を落としてドサリ...と言った感じでふかふかのソファに身を預ける。
「司も牧野には勝てないだろ」
ふふふと笑い出した類は、こんなにベラベラと次から次へと辛らつな言葉を流れるような口調で言ってくる人間は初めてだろうと、自分も最初は圧倒されて何も言い返す気力も無かったのだと言う。
「ったく...類、よくこんな女と付き合ってられるな」
「無口な俺には丁度良いんだろ?」
また少し口角を上げた類を横目で見た道明寺に、「世間知らずの俺には世知辛さを良く知っているところも丁度良いし」とご機嫌な様子で続ける類。
世間知らずの自覚はあったのかと思いつつ、世知辛さを知る女認定された事にどこか腑に落ちない気持ちもある。
「でも二人で話してみるまでそんなことは知らなかったよ。だから司も婚約者と話してみたら?」
まさかの、あの類が「対話」を勧めていることに驚愕。
勧められている道明寺も「お前が言うのか!?」と言う態度を隠しもせずに驚愕。
無理矢理に空港からそのまま道明寺の車に乗せられてホテルメープル着。
最上階の全方位ガラス張りロマンチックレストランの個室。
「つくしってかわいい名前だね。私は滋。しげるちゃんでいいよー。よろしくね」
大河原のお嬢様は想像とは全く違った女性だった。
まず、あたしと類が付いて来た事に嫌がるどころか大喜び。
「司の友人カップルを紹介してもらえるなんて嬉しい!」とあたしと類の手を掴んでブンブン振って、
「今日はいっぱい食べて飲もうね!」
「つくしは一つ下なんだねー。 私と友達になろうね」
「これ私の連絡先だよ。つくしのも教えて」
「ワインにする?シャンパン? 私のお勧めはこの白ワイン」
「フレンチは美味しいけど、何度も皿が運ばれてくるの面倒だからいっぺんに持ってきてもらおうよ」
「あ、ね? 今夜これから温泉に行かない? うちの旅館があるの」
大はしゃぎである。
あたしの事をベラベラ喋る女だと眉間にしわを寄せていた道明寺だけど、単純な騒々しさは貴方の婚約者の方が上ですけど?って感じ。
その道明寺も婚約者のその生態を知らなかったと見えて固まってるけど...本当に2回程度顔を合わせた程度なのね...と、類じゃないけどちゃんと話してみないと人間なんて分からないものだと思う。
「おいしいー! 私これ好きー!」
あたしのことをバクバク食う女だとも道明寺は言っていた。
貴方の婚約者の方が大食いクイーン並の食欲ですけど?
そんな気持ちで未だ固まったままの道明寺を見れば、口までポカンと開けている。
「類くんってずっとフランスにいたんだよね? 日本には慣れた?」
「あれ? 二人はいつから付き合ってるの?」
「え? つくし花沢で働いてるの!? 類くんの秘書! いやーんオフィスラブ。やらしい!」
質問攻めに合うけれど、類がその質問に答える訳は無いので何とかあたしが口を開く。
大河原譲曰く親同士が決めた婚約で乗り気では無かったけれど、大学の卒業も近付きもう逃げられないと観念をして顔合わせをしてみたら予想に反して同い年だった事で婚約に了承したとのこと。
どうやら親同士が決める政略結婚の相手なんてどうせ一回りは年上のおじさんだと思っていたのだそうな。
「オフィスラブいいなあ。 私も道明寺で働いてみようかな」
「司は忙しいからって全然会ってくれないの」
「年に1回あるかないかだよ? それで結婚しろって横暴だよね」
「類くんとつくしはいつ結婚するの? 結婚式は私も呼んでね」
「司の婚約者じゃなくてつくしの友人として招待して!」
「私と司の結婚式にも呼ぶよー」
ほぼほぼ一人で喋り続けながらあっという間にフルコースを平らげてデザートのカットケーキを2口で食べ終えた大河原譲。
「さあ、行こうか」と立ち上がる。
どうやら本気で温泉に行く模様。
「あたしと類はイタリアから帰国したばかりで...その疲れ...」
「うんうん。 疲れを癒すには温泉がいいよ!」
「いや...あの...」
「露天風呂ある?」
ここへ来て初めて発声した類の言葉に驚愕する。
確かに類は温泉好きだけど、まさか行く気なのか。
珍しく「やだ」「ねむい」「面倒」を口にしていなかったのは大河原譲に圧倒されているだけかと思っていたけれど、単純に温泉に興味があったということだろうか。
「あるよー。源泉かけ流しだよ。司はどうする? 忙しいなら別に無理しなくていいよ」
まさかの道明寺を置いて行く気の大河原譲に再度驚愕するあたし。
全く道明寺の事を気にしていない。
「お、俺は......」
「あ! 類くんとつくしにはプライベート庭園のある離を用意するね」
口を開きかけた道明寺の横からまた大河原譲が喋り出し、そのまま携帯電話でこれから温泉へ行くことを伝えている。
「道明寺...行く?よね?」
思わずあたしが声を掛けてしまったのは、俺様一番のこの男が婚約者に蔑ろにされた挙句に無視されたからである。
ちょっとかわいそうなような面白いような...うん、面白いなって思っていたら、「司、お前と丁度良さそうじゃん」と類がクスクスしてあたしの腰に手を回す。
「う、うるせー! お前! 何勝手に決めて...!」
「お前じゃない。滋ちゃん」
滋でもいいけど、ちゃんと名前で呼んでよねと言う大河原嬢は楽しそうに振り向く。
「...俺の部屋は一番良い部屋にしろ!」
相変わらずの俺様一番道明寺の命令にも、「司は滋ちゃんと一緒だよー」と自然体の大河原嬢が笑う。
「な、なに...! /// 」
案の定、真っ赤になって動揺し始めた道明寺と、あたしの腰を抱いたまま欠伸をする類と、ご機嫌な大河原のお嬢様を眺める庶民(あたし)の1日はまだ終わらないのであった。
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編集 / 2023.05.25 / コメント: 4 / トラックバック: 0 / PageTop↑
コメント
Re: No title
きな粉さま
一見パーフェクトな男性←これw 今回の笑いポイントだったので「ぷっw」が出て良かったです。
つくしちゃん心中までも失礼だよねw
だけど本性をしっているからこそのつくしちゃんのこの見解なのよね(;
楽しんで頂けたようで良かったですー。
コメントありがとうございました。
一見パーフェクトな男性←これw 今回の笑いポイントだったので「ぷっw」が出て良かったです。
つくしちゃん心中までも失礼だよねw
だけど本性をしっているからこそのつくしちゃんのこの見解なのよね(;
楽しんで頂けたようで良かったですー。
コメントありがとうございました。
[ 2023.05.26 21:24 | so | URL | 編集 ]
Re: タイトルなし
きょん!さま
丁度良い合戦開幕w
温泉で司と滋か深まりそうだしね。
この2人ってお似合いよね。検索のときから思ってるんだけどなあ...
コメントありがとうございました。
丁度良い合戦開幕w
温泉で司と滋か深まりそうだしね。
この2人ってお似合いよね。検索のときから思ってるんだけどなあ...
コメントありがとうございました。
[ 2023.05.26 21:22 | so | URL | 編集 ]